サンフウ精密株式会社様(金属部品加工業 山形県)
従業員の業務量・成果と給与をリンクさせることが会社の存続と成長につながると考え、成長塾で人事制度づくりを学ばれたサンフウ精密株式会社 奥山 崇氏に、その経緯と効果について詳しく伺いました。
●会社プロフィール
社名 サンフウ精密株式会社
代表取締役社長 奥山 崇
所在地 〒990-0850 山形県山形市くぬぎざわ西1-5
資本金 3,830万円
設立 1966年5月
従業員数 52名
事業内容 航空機部品加工、ボールネジ・LM ガイドの部品加工、工作機械の部品加工、
印刷機械部品加工およびユニットの組み付けなど
URL https://sanfu-seimitu.com/
1.多品種少量生産の機械部品加工・製造に特化
――サンフウ精密株式会社の会社概要をお聞かせください。
当社は1966年、機械部品を加工・製造する川西精密工業所(1981年に川西精密株式会社)として義理の父が創業しました。当社の特徴は、創業時から現在も変わらない多品種少量生産の機械部品加工・製造に特化したスタイル。大量生産を行う機械部品は、労働力が安価な海外の工場で加工・製造されていることからも分かる通り、我々の金属加工業は斜陽産業に位置していると考えています。
しかし、当社は工作機械や直動システム、デジタル印刷機、飛行機のランディングギアなど、産業用機械分野で求められる多品種少量生産の機械部品加工・製造に特化して取り組んできたからこそ、現在も多くのお客様にご愛顧いただけていると自負しています。
私自身は東京の製薬会社で働いた後、地元の山形に戻ってから100人規模の機械工具メーカーの管理部門担当を経て、2007年に専務として川西精密株式会社に入社。翌2008年、代表取締役に就任しました。畑は違いましたが、これまでの経験を生かしつつ、従業員を路頭に迷わせてはいけないという思いとともに、がむしゃらに舵を取ってきました。
代表就任当時の従業員数は25名前後だったと思いますが、おかげさまで現在は倍以上。売り上げも約2.5倍に増加しました。2017年には山形市に念願の新工場を新築、2019年には現在のサンフウ精密株式会社に社名変更を行いました。そして現在、多様化するお客様のニーズにダイレクトに応える企業になるべく、日々精進しております。
2.業務量・成果と給与をリンクさせるのに苦労
――成長塾を受講した背景をお聞かせください。
機械工具メーカーの管理部門担当の頃から、常々従業員の給与査定は難しいと思っていました。まず、業務量・成果と給与をリンクさせるのにいつも苦労しました。その理由は、中小企業の場合、どうしても個人の能力差が足枷になるからです。もちろん、能力差があるのは仕方がないことで、従業員もある程度は理解していると思います。だからといって、一律の昇級プログラムに当てはめてしまうと、格差が思いのほか大きく、過剰評価になってしまう傾向があります。
幸いにも当社は順調に業績が伸び、給与もアップしていましたから、結果だけ見ると従業員から給与に関しての不満は出ていませんでした。しかし、会社を成長させるには、新卒や中途を問わず、優秀な人材を採用して育ていく必要があります。その人材育成のなかで大事なのは、業務量・成果と給与をリンクさせ、従業員に納得感を持ってもらうこと。納得感がなければ従業員は辞めてしまうでしょう。しかし、客観的な視点で業績を評価し従業員の給与に反映させていくのは至難の業。従業員が増えてくればくるほど、難しさは増す一方でした。
中小企業の当社には人事課はありません。拠りどころは、私の頭のなかにある独自の給与計算基準のみ。このままでは私が引退したとき、私の頭のなかにある給与計算基準を誰も引き継げません。そこで、私の給与計算基準を可視化したうえで、業務量・成果と給与をリンクさせることができる人事制度の仕組みづくりが必須と考えた次第です。
――成長塾受講の前、別の評価制度を導入していたと伺っています。
成長塾の前、2013年に読んだある本をもとに2014年から評価制度を導入しました。中堅管理者にも評価の仕方を勉強させ、つい最近まで取り組んできましたが、残念ながら従業員の給与にリンクさせることはできませんでした。ただ、評価結果をもとに中堅管理者と部下の個人面談は定着させることができました。そういう意味では、人材育成や教育面で一定の成果は得られたと思っています。
――成長塾を受講された経緯を教えてください。
成長塾の受講は、松本先生の本『社員が成長し業績が向上する人事制度(日本経営合理化協会出版局)』を読んだことがきっかけです。最初に読んだときには「なるほど」という印象でした。当社に導入してみたいと思っていた矢先、成長塾で詳しく学べることを知り、受講することにしました。
3.リモートおよび対面でも成長塾を受講
――成長塾受講の進捗状況をお聞かせください。
受講したのは2020年9月で、コロナ禍の真っ只中。リモートでの受講でした。理解することはできましたが、松本先生が「もう一回対面で行います」とおっしゃっていたので、せっかくならと2021年9月に対面でも受講させていただきました。これにより、成長シートづくりだけでなく、成長シートから財務への結びつけ方なども学ぶことができました。
加えて、リモートでの受講を終えた後、別途、月2回のオンラインコンサルティングも行っていただきました。1年間しっかりオンラインコンサルティングでご指導いただいたおかげで、成長塾の人事制度を深く理解することができました。
――そうすると、人事制度を導入したのは2021年9月以降ですか。
おっしゃる通りで、2022年5月から本運用をスタートさせました。ですので、残念ながら人事制度導入前後の定量的効果を示すことができません。申し訳ございません。
しかし、リモートでの受講後から、本運用がスタートするまでの約1年半の間に3カ月間×4回、約1年におよぶ仮運用は実施しました。最初の仮運用は従業員数が多い製造部門の一般職および中堅管理者を中心に実施。1年後には、営業や生産管理部門の一般職、中堅管理者まで展開していきました。
4.オンラインコンサルティングなどを通じて成長シートをブラッシュアップ
――仮運用の感想をお聞かせください。
まずは成長シートづくりが大変でした。一般職、中堅職、管理職のポジション別、さらに製造や品質管理、営業、管理部門などの職種別を加え計15種類の成長シートを作成。3カ月ごとに成長支援会議を行い、成長シートを少しずつブラッシュアップさせながら仮運用を続けてきました。
オンラインコンサルティングによる松本先生のアドバイスや、成長シートで評価した従業員から意見を募ったことで、多少の問題を認識しながらの仮運用でしたが、本運用前にはかなり精度を高めることができたと思っています。
――多少の問題とは具体的にどういったことでしょうか。
成長シートで1~5点の評価をつけるわけですが、「基礎的なことができる」「応用的なことができる」などの区分が業務によっては難しく、どこまでが3点で、どこからが4点なのか迷いました。すでに評価制度で点数付けは経験済みとはいえ、成長塾の成長シートは勝手が違います。最終的には松本先生や従業員の意見を聞き、根本的な部分を確認しながら、全体の精度を高めていきました。もちろん、本運用後もすべての問題が解消しわけではありませんが、今後も運用しながらブラッシュアップできればいいと思っています。
5.「優秀な従業員のやり方を真似る」に感動
――成長塾の人事制度に何を期待していますか。
まずは業務量・成果と給与をリンクさせることですね。従業員に「これからは評価と給与がリンクする」という話はしていますから、頑張り次第で自身の給与が決まると真剣に捉えてくれているはずです。まさにこれからが本番だと思っています。
また、「会社のなかの優秀な従業員を明らかにし、そのやり方を真似れば従業員のレベルが上がる」という松本先生の言葉に感動しました。これはぜひ、人事制度のなかで実践していきたいと考えています。
6.従業員の約8割が国家検定1~2級の資格を持つ技術者集団
――「やり方を真似る」とは、技術のことを指しているのでしょうか。
おっしゃる通りです。やはり精度の高い部品加工を行うには、工作機械を自由自在に操る技能は欠かせません。ですから、技術力を高める教育については、人事制度とは別にこれまでさまざまな取り組みを行ってきました。
最も大きな取り組みは、9年前から実施している国家検定資格取得の推奨です。我々が言う国家検定資格とは機械加工技能士のことで、そのなかには数値制御旋盤やマシニングセンタ、フライス盤などの技能別に1級、2級があります。取得すれば、客観的にスキルが認定されるわけですから、我々としても教育の成果、個人の技術として分かりやすく評価することができます。
資格を取得すれば5~10万円の一時金を支給する企業が多いようですが、当社は1級取得で毎月2万円~の技能手当を支給するようにしています。30万円前後、年収がアップするわけですから、従業員は頑張って取得に励みます。結果、現在は従業員の約8割が1~2級の資格を取得。おかげさまで正々堂々、技術者集団と名乗ることができるようになりました。
ただし、現場のなかで学ぶOJTだけですと、新卒が1級の資格を取得するのに約10年かかります。ビジネスサイクルが加速し続けている現在、さすがに10年は長過ぎます。また、資格を取得した従業員は大雑把なところの8~9割までは技術を伝授しますが、肝心要はなかなか教えたがらない傾向が見られました。これでは、せっかく獲得した技術が個人のなかで消費されて終わってしまいます。
そこで注目したのが、成長塾の「やり方を真似る」方法です。できる従業員も、そのやり方を教えなければ成長点数の5点を得ることができません。つまり、教えた方が得をするのが、この人事制度というわけです。本当に素晴らしいと感銘しています。
7.地域でナンバーワンの企業を目指していく
――会社として今後の目標や展開をお聞かせください。
山形という片田舎で小さな町工場を営んでいるわけですが、斜陽産業であることを加えて考えると、一般的には業績が下がり続け、どこで事業縮小するのか、あるいは転換するのか思案しないと存続が難しいのが現実です。しかし、当社は約10年前に「地域の中堅優良企業の仲間入り」を目標に頑張り続け、結果オーライではありますが、多くのお客様に支えられながら、その目標を達成することができました。そして、現在も多くのお客様から厚い信頼を得ている状況です。
これを踏まえ、次の10年に向かう当社の中長期計画は「雇用を守り、納税をして、地域に貢献していきたい」を最大の目標に掲げ、地域でナンバーワンの企業を目指していきます。
社内的には人事制度の自走を目指します。体力的に考え、いつまでも私が会社の経営に携わり続けることはできませんから、息子に事業承継できる体制づくりを進めるためにも、人事制度の自走は必須。「仕組みさえつくってしまえば自走できる」と仮運用で手ごたえを掴んでいますから、これから数年間が人事制度づくりの勝負だと思っています。
――最後に一言お願いします。
当社にジャストフィットする人事制度をつくるには、松本先生が持っているさまざまなノウハウが欠かせません。今後は各論のところも伺い、ブラッシュアップしていきたいと考えています。引き続きよろしくお願いいたします。
サンフウ精密株式会社様、お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
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