株式会社美里花き流通グループ様(生花の生産、卸売、小売、輸入業 愛知県)
94期の成長塾に入塾し、人事制度づくりを学ばれた株式会社美里花き流通グループ
代表取締役社長 櫛田 篤弘氏に、その経緯と効果について詳しく伺いました。
●会社プロフィール
社名 株式会社美里花き流通グループ
所在地 〒467-0832 愛知県名古屋市瑞穂区神前町2-38
資本金 3,790万円
創業 1965年10月
設立 2001年10月
従業員数 26名
事業内容 生花の生産、卸売、小売、輸入
URL http://www.hanamisato.co.jp/
1.蘭の花の輸入では国内最大級
― 美里花き流通グループの会社概要をお聞かせください。
当社は国内をはじめ、海外10か国の自社農場と契約農場で生産した花を日本全国の花市場に出荷している花屋です。特に蘭の花を輸入し日本国内に出荷する卸としては、日本最大級だと自負しています。
もともとは1965年、名古屋市瑞穂区にある商店街で5坪の小さな花屋から当社はスタートしました。母の「いらっしゃいませ、ありがとうございました」を子守唄に育ち、知らず知らずのうちに「商売人とは何か」を体で覚えました。両親の口癖は「義理人情を忘れるな」で、今でも私の大事な言葉として刻み込まれています。
4年半のアメリカ留学を経て、中区の老舗の花屋で3年半修行をし、実家に戻ったのは26歳のときでした。このころは景気が良く、友人も大手一流企業の内定を6社もらっていたほどでしたが、私は家業を企業にして花屋の仕事で生活レベルを上げるのが目標だったので、実家を継ぐことにまったく抵抗はありませんでした。
2001年に現在の美里花き流通グループとなり、法人化と同時に私が代表に就任しました。2003年に始めたのが蘭の花の輸入卸事業です。留学時代に友人関係を築いた台湾人との縁で台湾の農園で栽培された蘭の花を輸入し、日本全国へと出荷。今でも当社の売上を支える事業として大きな役割を果たしています。
この頃、利益率が高かった献花事業での競合が増え、利益が見込めなくなってきたため、花の生産(委託)から卸事業、販売まで手掛けるワンストップサービスに舵を切ることを決意。会社を成長させたいという想いと若さだけで突っ走りました。たくさん怪我はしましたが、協力してくれる方々にも恵まれ当社の礎を築くことができました。
2.入社した従業員がすぐに辞めてしまう
― 成長塾を受講するきっかけをお聞かせください。
慢性的な人手不足に頭を悩ませていたのが大きな理由です。前述したように、会社を成長させたいという想いで、とにかくがむしゃらに働きました。就業時間は午前5時30分から早いときで午後8時30分、遅いときだと午後11時。休みは週1回で繁忙期になると休めないこともあり、月間の残業時間は最大150時間に達していました。
こうして頑張ったおかげで業績は大きく向上。気が付けば関東を中心に20店舗を構え、従業員は100人以上、売上は13億円を超えるまでになっていました。
ところが、急激な事業拡大がたたって従業員教育が追いつかず、従業員は入っては辞め、入っては辞めの繰り返し。仕事を覚える前に辞めてしまうため、頭数はいても新人ばかりで仕事にならないことも多々ありました。
私としては誰よりも働いていましたから「なんて甘っちょろいやつばかりなんだ」「根性が足りない」と思っていました。でも、それは社長だから当たり前であって従業員は違うんですね。私は「従業員は自分と同じような考えでやってくれるもの」「みんなでこの会社を大きくしていこう」が当たり前と思っていたぐらいですから、当時はその違いが分かりませんでした。
従業員の頭数は揃っていてもすぐに辞める状況でしたから、私としてもマネジメント力不足は痛感していました。とはいえ、従業員教育を実施する労力も時間もありません。そこで、まずはちゃんとした人事制度を導入して従業員が定着する仕組みをつくりたいと思い、人事コンサルティング会社を探すことにしました。
3.経営者以上に人事のプロはいないの言葉に驚いた
― コンサルティング会社はどのように選定されたのでしょうか。
大手企業のコンサルティング実績があるところなど、たくさんの人事コンサルティング会社をリストアップしました。そのなかから5社ほどにアポイントを取り、実際にお話しを伺うこともしました。ところが、話されている内容が難しくてよく分からないというか、当社には合わない感じがしました。もちろん、お願いすればそれなりの効果は期待できると思いますが、かなりのコストがかかるため、二の足を踏んでいました。
そんなとき、ネットで松本先生が運営するENTOENTOのホームページを見つけました。まず「魚屋さんでもできるのか」「生ものを扱うという点では当社も一緒」というのが最初の感想。そして「経営者以上に人事のプロはいない」「自分ではダメだと思っていたことがそうではない」という松本先生の言葉に驚きを覚えました。そこで、松本先生が提唱する「人事制度の可視化」は当社に合うかもしれないと思い、成長塾を受講することしました。
― いつ成長塾に入塾されましたか。
2010年、94期の成長塾に入塾。東京に足を運び、計6回の講座を受講しました。学んだのは人事制度の全体像や成長支援制度の基礎、成長シートづくり、ステップアップ制度(昇進昇格制度)、賃金制度づくりなど。制度を理解し、つくり方のノウハウを学び、人事制度をつくり、運用の仕方を学びました。
4.労働分配率と人時生産性が大きく向上
― 受講後、どのような効果を得ることができましたか。
2010年10月~2011年9月までをBefore、2018年10月~2019年9月をAfterとした、成長塾受講による人事制度導入の定量的成果を以下に示しました。
― 売上が下がり生産性は向上していますが、その理由は。
現実的に経営が悪化していたことが最大の要因です。成長塾を受講したことで、売上が儲けにつながるわけではないこと、生産性を上げなければ利益は残らないことに気づいたことも一因です。2010年当時、20店舗あった花屋はすべて閉店。現在は「花のみせ美里」「FLOVERSフラバーズ」の2店舗に絞って運営しています。100人以上いた従業員も大幅に削減し、現在の26人で運営できる体制にしました。これに加え、委託農園を通じた花の生産、蘭の花の輸入、そして卸事業に特化。これにより、全体の売上は下がりましたが、労働分配率や人時生産性といった生産性は大きく向上しました。
5.人事に関する問題の根源は自分自身だった
― こうした効果はすぐに出たのでしょうか。
正直なところ、すぐに出たわけではありません。人事制度のもとになっている成長シートを従業員一人ひとりが理解し、どうすれば評価されるのか、どうすれば賃金がアップするのかを考えて業務に取り組むことが大事。会社にもよると思いますが、数年はかかると思います。
すぐに結果が出たのは私自身ですね(笑)。成長塾受講以前の私は頻繁に従業員を怒鳴りつけていましたが、どうやら従業員は社長の叱りには一貫性がないと思われていたようです。いつ雷が落ちてくるか分からない(笑)。私はいつも同じつもりでしたが、松本先生と話しているなかで思い返してみると、社長として数字を追って感情が高ぶっているとき、穏やかで義理人情の気持ちが強いときでは、確かに社長の対応は違うかもしれないと思いました。
でも、松本先生は「社長の会社ですからいいんですよ」というだけなんです。あなたが悪いとは決して言わないんです。だからこそ、自分がダメだったことに気づくのかもしれません。また、成長シートづくりを行っているなかで、自分の頭のなかを可視化して整理整頓することができたのも、自分を見つめ直すきっかけになりました。
叱ってばかりでは、従業員はついてこないことに気づきました。今まで人事に関する問題の根源は何を隠そう自分自身だったわけです。今は従業員を叱ることはありません。従業員にはかならず「~さん」と、さん付けで呼ぶようにもなりました。
― 成長シートはどのようにしてつくられたのですか。
成長シートは私がつくりました。ダメなところを探し出す減点方式ではなく、できたところを評価する加点方式が特徴ですね。とにかく初歩的なところから、できたところを評価するようにしました。
ただ、想いが強かったせいか、一般的には成長シートの枚数は数ページ以内が相場らしいのですが、私がつくった成長シートは24ページまで膨らんでしまいました。松本先生にも「さすがにこれは多いのでは」と言われました。でも、従業員は「社長が何かやろうとしている」ことは理解してくれました。ちょっとだけ従業員との距離が縮まった感じがして、うれしかったですね。
6.従業員にとって成長シートは味方
― 会社が変わってきた時期はいつ頃ですか。
成長シートが浸透し、ステップアップ制度や賃金制度にリンクするようになってきた2015年ぐらいから変わってきました。たぶん、従業員にとって成長シートは半信半疑だったと思います。でも、成長シートの評価が本当にステップアップや賃金に反映されていくことで、自ずと変わっていきました。もちろん、運用していくなかで成長シートの精度や制度の仕組みが整理されてきたことも大きな要因になっています。
会社が期待する成果を達成するために、従業員はどうしたらいいのか分かりやすい仕組みにしました。そして、その頑張りがどのように評価されて、どのように自分に還元されるかを明確にしました。これらにより、従業員にとって成長シートは味方なんだと気づいてくれたのです。
具体的な例としては休日が挙げられます。従業員には「目標に設定した人時生産性をクリアするごとに休日を増やします」と伝え、私も従業員もより効率的な働き方を目指しました。結果、4週4休が4週6休に、そして現在の4週8休(週休2日制)に到達。残業時間も平均20時間になりました。
7.経営計画書に人事制度を明文化
― 人事制度を浸透させるための施策などは行いましたか。
上手く動き始めた人事制度ですから、頓挫させたくありません。さらに前へ進めるためには「すべてオープンにして共有すべき」と考え、従業員一人ひとりに持たせている経営計画書に明文化。誰もが人事制度の仕組みを理解できるようにしました。
経営計画書で明文化したのは会社の業績と社員の成長による賞与や昇給の決定方法です。賞与については粗利の2.5パーセントを夏と冬の賞与原資として成長点数で配分する仕組み、決算賞与の原資は経常利益の2パーセントと決めるなど、すべてをオープンにしました。
昇給については、粗利が2億500万円未満の場合はパターン5に相当し、誰も昇給しません。粗利が2億500万円以上のパターン3になると、総合評価S・A・Bの人は昇給します。パターン1の2億2千万円を超えるとSからDの人まで、みんなが昇給する仕組みとなっています。
8.従業員の成長を感じる
― 現在の状況をお聞かせください。
定期昇給ができるようになり、賞与も出せていますから、ウソ偽りのない人事制度として運用することができています。昇給・賞与がどのように決定されるかを明確にし、実際に受け取ることで従業員の成長は加速し、明らかに会社の構造そのものが変わったと感じています。
従業員は減りましたが、定着率が50パ―セントから92.8パーセントになったことで、高いスキルを持つ少数精鋭の従業員へと変化。経営者に近い感覚で、利益を考えながら自らの判断で行動できる従業員へ成長したと感じています。さらに、情報共有はもちろん、共有スピードまで向上しました。従業員それぞれが情報を共有し意思疎通することが成果につながると理解した結果ですね。
9.専門家の指導が問題解決の近道
― 人事制度に悩んでいる企業に向けて、御社からアドバイスがあればお願いします。
実は経営コンサルタントに入っていただいた時期もありました。しかし、人事に勝るものはないと確信しました。結局、基本は人なんです。人事制度をきっちり組み立てないとダメなんです。従業員の満足と安心を得てこそ、会社と従業員は同時に成長していくことが分かりました。
アドバイスを言わせていただけるなら「素直に成長塾に行きなさい」ですね。松本先生に指導してもらった方が本当の問題を早く解決できます。本来であれば完成するまでに10年はかかる人事制度が6か月で完成します。ちなみに、私の友人の何人かは成長塾を2~3回受講しています。1回の受講だけで分からない場合は、複数回受講するのも良いと思います。
私の場合、成長塾修了後も月2回の電話相談を継続的に続けていることが大きいと思っています。人事のことはもちろん、そのときの悩みごとから雑談まで松本先生と話せるので、会話のなかから経営や人事のヒントを得る機会が多いと感じています。
― 最後に今後の展開をお聞かせください。
最近2年ぐらいは、先生との電話相談で退職金制度の話をしています。計算してみると、一時期ニュースでもさかんに取り上げられたように、社員が定年退職後の生活にピッタリ2000万円足りません。「どうしたらいいですか?」と相談すると、松本先生いわく「答えは簡単です。元気なうちは働いてもらって、その後、本当に働けなくなったときに退職金を出す制度にすればいいじゃないですか」とのこと。私も納得し、現在は「働きながら貯める」退職金制度に取り組んでいるところです。
最後に松本先生には“感謝”の一言しかありません。出会えていなかったら、今の自分はなかったと思っています。本当に心の底からそう思っています。ご面倒をおかけしますが、これからもよろしくお願いいたします。
株式会社美里花き流通グループ様、お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。
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※ 取材日時 2020年
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