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株式会社ビット様(切削工具・耐磨耗工具の設計・製作・販売等 群馬県)

2023-05-11 [記事URL]


処遇(昇給・賞与)の納得感と働くモチベーションを高めること、そして「一生懸命に仕事をしている人の志を尊重する会社にしたい」という想いから、成長塾で人事制度づくりを学ばれた株式会社ビット 代表取締役 柳沢 哲也氏に、その経緯と効果について詳しく伺いました。

●会社プロフィール
会社名:株式会社ビット
所在地:〒370-2322 群馬県富岡市岩染343
代表者:代表取締役 柳沢 哲也
資本金:3,000万円
設立:1965年5月
社員数:32名
事業内容:切削工具・耐磨耗工具の設計・製作・販売 精密部品の切削・研磨加工
URLhttps://biteway.jp/

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1.工業用特殊刃物の専門メーカー

――ビットの会社概要をお聞かせください。

当社は工業用特殊刃物を製作・販売している会社で、1959年11月に私の父が創業しました。当初は鍛造バイトや付刃バイトのJIS標準品を製造していましたが、その後、超硬ロウ付けバイト、特殊総型バイト、特殊スローアウェイチップ、耐磨耗工具、切断刃・精密刃物など、多種多様な製品づくりを展開。「高品質」「複雑形状」「長寿命」を軸とした〝きれもの“工具の設計・開発をする工業用特殊刃物の専門メーカーとして大きく成長しました。現在は3万種以上ものオリジナル特殊工具の製造実績に基づき、お客様のご要望に合わせた最適な工具を提案しています。

――コーポレートサイトとは別に立ち上げている「特殊超硬バイト 開発ラボ」は、どういう役割を持つサイトでしょうか。

2021年9月末にオープンした「特殊超硬バイト 開発ラボ」は、刃物や工具で困っている人の役に立つために、そして我々が作っている工具を使用した人の生の声を聞くために立ち上げました。

株式会社ビット様外観
緑溢れる群馬県富岡市で工業用特殊刃物を製造

顧客のニーズを直接聞くことは、自分たちの技術をさらに高めることにつながります。まだまだ立ち上げたばかりですし、当社の生産体制も追いついていない状況ではありますが、今後も技術力をあげていき、問い合わせを増やしていきたいと考えています。

――柳沢社長の経歴をお聞かせください。

ビットに入社したのは1991年、26歳のときです。入社前の3年間は切削工具づくりのノウハウを学ぶため、川崎の工具製造会社にお世話になっていました。ビットに入社後は、15年ほど現場でしっかり鍛えられました。職人としても一人前となった頃、2006年に代表取締役に就任しました。

2.求めたのは業務を可視化し、処遇(昇給・賞与)に反映できる仕組み

――成長塾を受講された背景をお聞かせください。

昇給の説明ができないことがきっかけでした。先代の父は、松本先生いわく「鉛筆なめなめ」で従業員の昇給を決める職人気質の町工場社長。昇給額に納得がいかない従業員は、父ではなく私のところにきて「もっと上げてほしい」と直談判してくることが度々ありました。当時の私に昇給を決める権限がないのはもちろんですが、何よりも父の頭のなかにあるロジックで算出される昇給額を説明することができず、いつも途方に暮れていました。

そもそも「鉛筆なめなめ」は父の主観によるもので、従業員の働きを定量的に見極めて算出したわけではありません。どんなに本人が頑張ったと思っても、給与に反映されないこともあれば、客観的に見て頑張っていない人の方が高い給与をもらっていることも珍しくありませんでした。

そうした処遇(昇給・賞与)は、従業員のモチベーションの低下につながっていきます。どんなに頑張っても正当に評価されないのであれば、やってもやらなくても同じ。適当にやっていればいいという雰囲気が社内に漂うようになっていたと思います。

製品生産現場
多品種少量生産の現場では、日々異なる製品を生産しています

私も現場で鍛えられてきましたから、従業員の不満は理解できます。だからこそ、「一生懸命に仕事をしている人の志を尊重する会社にしたい」という想いがありました。その想いが高じ、考えるようになったのが人事制度の構築です。業務とスキルを可視化し、それが処遇(昇給・賞与)に反映される仕組みづくりが大事だと考えるようになりました。

3.賃金テーブルは作成できたが、業務の可視化にはたどり着けない

――成長塾以外で人事制度の構築に向けた取り組みなどは行いましたか。

まず、2010年に公益財団法人日本生産性本部の群馬県生産性本部にて賃金制度セミナーを受講し、新たな賃金テーブルを作成しました。号俸制度まで導入し、それなりに制度化はできましたが、肝心の業務の可視化まではたどり着けませんでした。実は同年、群馬中小企業家同友会の特別例会で松本先生の話を伺う機会もありました。そのときは、成長塾を受講する勇気がなく、検討だけさせていただきました。

その後2015年、ある方に紹介された別の人事制度の本に共感し、その本をもとに人事制度をつくる決意をしました。幹部従業員にも本を配布して一緒につくっていこうとやる気満々でしたが、すぐに行き詰ってしまいました。結局、成長塾でいう成長シート、これがつくれませんでした。どの業務をどのレベルで定義すればいいのかに悩み、評価の仕方も分かりませんでした。

4.工場見学会で人事制度の仕組みを深く知る

――成長塾の受講に至ったきっかけをお聞かせください。

遅々として人事制度の構築が進まないなか、2016年に日本経営合理化協会のセミナーで再度松本先生の話を伺う機会を得ました。そのとき、松本先生と名刺交換をさせていただき、「群馬県でしたら、群協製作所で開催される工場見学会にお越しください」とお誘いを受け、参加しました。群協製作所の遠山社長のお話、松本先生のお話、そして群協製作所の工場見学をさせていただき、実際の人事制度の仕組みを深く知ることができました。これをきっかけに、2016年143期生として成長塾を受講させていただきました。

5.3年間の仮運用を経て2020年4月から本運用をスタート

――受講後の運用状況をお聞かせください。

成長塾で成長シートの作り方を理解したつもりでしたが、良いものをつくりたい気持ちが先行してしまい、かなり時間がかかってしまいました。ある程度、運用できる形になったのは受講してから半年後でした。

仮運用をスタートさせたのは2017年です。作成した成長シートは製造部と管理部の2部門で、一般階層の従業員のみを対象にしました。成長シートをもとに上司が①評価 → ②成長支援会議 → ③フィードバックという流れも2017年から始めました。成長シートのブラッシュアップ、成長過程を職種や役職で示したステップアップ制度の整備などを行っていたら、結果的に3年かかった次第です。

高い品質が求められる製品にはチームワークで対応
高い品質が求められる製品にはチームワークで対応

本運用は2020年4月からスタートしました。これまでの賃金テーブルは白紙にして、成長シートの評価をベースにしたまったく新しい賃金テーブルでスタート。評価と処遇(昇給・賞与)がリンクする人事制制度の仕組みが完成しましたが、ようやくスタートラインに立ったという状況です。これから5年間ぐらい人事制度を運用し続けると、その効果も見えてくると考えています。

6.人事制度導入後、定着率100%を達成

――人事制度導入後の定量的効果をお聞かせください。

2015年10月~2016年9月をBefore、2021年10月~2022年9月をAfterとし、成長塾受講前後を比較した定量的効果を以下に示しました。おかげさまで、売上高、粗利益、粗利益率などが大幅に伸び、人時生産性も向上しました。成長塾受講後は顧客と従業員が増加しており、それがこの数字に表れている部分もありますが、少なからず、人事制度の導入が業績向上に寄与していると思っています。ただ、先ほども申し上げた通り、本運用が始まったばかりですから、大きな効果が出るのはこれからだととても楽しみです。


人事制度の導入で大きく変化したのは定着率です。これは確実に良くなっています。2015年10月~2016年9月の定着率は85%とありますが、それ以前は5人退職し7人採用した年もありました。人事制度の導入後の2021年10月~2022年9月は、一人も退職者がいません。実際、工場の雰囲気が変わり、従業員が落ち着いて仕事をしているという印象を受けます。

7.フィードバックがリーダーを育て、定着率を高めている

――人事制度の何が定着率に影響したと考えていますか。

フィードバックを始めた頃から変わってきたと感じています。以前は昇給の際に1回、後は適宜というスタイルで私が面談を行っていました。人事制度導入後は、各部門のリーダーと部下が面談するフィードバックの仕組みを追加。期初で目標を策定し、中間で進捗状況を確認、期末に成長シートをお互いが確認し合うことで、従業員のなかに納得感が生まれるようになったと考えています。実際、フィードバックでしっかりコミュニケーションが取れていますから、従業員の不平不満も聞こえてきません。従業員の日報には、フィードバックへの感謝の言葉が書かれていました。

フィードバックで何より驚いたのは、リーダーが成長したことです。どこを頑張れば給与が上がるかを話し合い、もし足りないところがあったら「俺が教える」というようなフィードバックを行うリーダーが増え、リーダーとしての自覚が促進されていると感じます。そして、リーダーが成長すれば、部下も同様に成長していきます。こうした良い循環が工場内に落ち着いた雰囲気をもたらし、100%の定着率につながったのだと考えています。

8.人事制度を要約した「のびのびすくすく成長支援制度」を作成

――そのほか、人事制度を導入して良かったと思うところはありますか。

以下のようなところでも、人事制度の導入効果を感じています。

<処遇(昇給・賞与)の仕組みをロジカルに説明できる>
成長点数に応じて給与が決定されるわけですから、そのロジカルな説明に従業員も納得しています。しかも、評価を高める方法については、リーダーとのフィードバックでしっかり話し合うことができます。賞与についても説明がとても簡単。あらかじめ設定された全体の賞与予算額をベースに、今期はこの売り上げになればこの賞与になると説明できます。

<社内に規律が生まれている>
人事制度導入前は、社長である私の権限以外は曖昧な部分が多かったと思います。しかし、人事制度導入後は「課長は課長らしく課長の仕事」を、「係長は係長らしく係長の仕事」をするようになりました。成長等級とともに役職がはっきりしたことで、組織力がついてきたと実感しています。

イキイキと働く従業員
「群馬県いきいきGカンパニー」でゴールド認証を受けた当社で、従業員はイキイキと働いています

<内定を出した新卒全員が入社>
2014年から新卒採用を行っており、今年度も4名に内定を通知させていただきました。今回は、その内定者4人全員が入社するとのこと。会社説明会のとき、人事制度の仕組みを分かりやすくまとめた「のびのびすくすく成長支援制度」で、当社の人事制度を説明した効果があったのかもしれません。

9.経営理念を支える人事制度

――人事制度に悩んでいる企業に向けて、御社からアドバイスがあればお願いします。

経営理念に直結するのが人事制度だと考えます。もちろん、経営理念は会社によって異なりますが、どの会社も「社会に貢献したい」「顧客に貢献したい」「従業員を幸せにしたい」などがベースにあるのではないでしょうか。ちなみに当社の経営理念は「きれものづくりで公器となる」です。技術・組織・仕組み・人財をしっかりとつくり上げることを通し、「従業員とその家族の物と心の幸せを追求し、社会に役立ち、必要とされる企業・人財になる!」を目指しています。

こうした経営理念は、会社や従業員の成長なくして実現することができません。では、会社や従業員の成長を促すにはどうすればいいか、それはこの人事制度を導入し、従業員が成長できる環境をつくることです。当社は「一生懸命に仕事をしている人の志を尊重する会社にしたい」という想いから成長塾の人事制度を導入しましたが、結果的に会社や従業員の成長につながることが分かりました。人事制度に悩まれているなら、ぜひ成長塾を受講してください。

――最後に一言お願いします。

日本経済を活性化させるため、松本先生が指導する人事制度がより多くの中小企業に導入されることを願っています。お体をご自愛しつつ、1日でも長く成長塾の壇上に立ってください。引き続きよろしくお願いいたします。

柳沢社長

株式会社ビット様、お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

※株式会社ビット様のホームページ(https://biteway.jp/)
※取材2023年2月


第157話 社員は自分の賃金の増やし方を知っているか?

2023-05-09 [記事URL]


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賃金はどのように増えるのか?
この教育がとても重要な時代になりました。

そもそも社員の賃金は物価高によって上がるのではなく、社員の成長によって上がることが最も大切な要因です。社員を大事にする経営者は、社員を成長させて業績を向上させ、そして賃金を上げたいと考えています。この考え方は欧米で生まれた経営学では一切触れていません。

損益計算書について理解している社員からすれば、社員の賃金を上げることは営業利益を減少させることになるため、経営者は賃金を上げることに対してあまり積極的ではないと思うでしょう。

ところが、経営者の中には業績が良くなったらその分昇給・賞与を増やしてあげたいと考えている方が少なからずいます。その考えを具体的に社員に説明しなければならないでしょう。

経営者が昇給・賞与の支給合計金額を決めるときには必ず損益計算書を見ています。そして、その内のどこかの利益が前年よりも増えていたときは、その増えた分昇給・賞与の合計金額を増やそうと考えているのです。これは実際に過去の昇給合計金額や賞与合計金額と損益計算書を見比べれば、はっきりと分析することができます。

当然ながら賃金を上げることは将来の人件費を増やすことにつながり、リスクを増やすことになります。しかし、実際にそのリスクを承知の上で昇給・賞与を増やしているのであれば、この昇給合計金額や賞与合計金額を何に基づいて決めてきたのかを分析し、社員に発表することが可能になります。

そして昇給金額は社員の成長度合によって違います。例えば、評価が20点の社員と40点の社員と60点の社員と80点の社員ではそれぞれ昇給金額が違います。これは、差をつけているのではなく社員の成長によって増やしています。賞与も全く同じです。これは各社員の過去の昇給・賞与の実績を分析するとはっきりと分かります。

この社員の成長によって金額が異なることも、社員に前もって説明することが必要な時代になりました。

社員に「頑張ったらたくさん昇給・賞与を出す」という言い方では問題があります。一番昇給・賞与の多い社員一人だけが頑張っていることになります。まずは会社の業績を良くすること、その業績が良くなった分だけ昇給・賞与が増えることを事業年度の最初に説明することができるようにならなければなりません。

そして、成長することによって金額がどの位増えるか前もって分かることで、社員はこの会社で成長することが自分の昇給・賞与を増やすことにつながると分かります。

このときに必要なのが「成長シート」です。この会社でどのように成長することができるのか、そして今どれだけ成長しているのかを社員が自分で確認できるよう、仕組みにしなければならないでしょう。

この「成長確認」は曖昧なものではいけません。しっかりと絶対値、成長点数として分からなければならないのです。成長点数が増えていくことで昇給・賞与が増えていく。その前提として会社の業績、例えば経営目標が実現できたときにはいくらになるか。またはその経営目標が実現できなかったときには昇給・賞与はどのように変わっていくのか、このことを前もって教育している会社は本当に少ないと言わざるをえません。

物価高によって賃金が次から次へと上がっていく今の時代においては、この教育がとても重要になりました。会社の業績、そして成長点数によって自分の昇給・賞与が前もって分かる会社になることで、社員はこの会社で成長していくことに安心感を得るでしょう。

社員の定着率を高めるためには、目先の金額を上げることよりも、この会社でじっくりと成長しながら賃金を上げていくことがしっかりと計画されていなければなりません。

日本では転社した全員の賃金が上がることはありません。欧米と違って賃金交渉することが一般的ではないからです。賃金が上がる人の割合もせいぜい2割でしょう。入社後も継続して賃金が上がる保証はありません。今の会社で成長していくことで将来的には転社するよりも高い賃金を得られるのです。

転社にチャレンジするよりも、社員を成長させる人事制度のある会社で成長することがとても重要です。そのことを教育しているでしょうか?


第156話 賃金に不平不満を言える会社は定着率が高い

2023-05-02 [記事URL]

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社員の退職の理由には「本音」と「建前」があります。社員が賃金交渉に来て、その交渉が決裂したから社員が退職したという事例はあまりないでしょう。つまり、経営者は社員の退職理由は賃金ではないと考えています。

ところが、厚生労働省の調査「第6回21世紀成年者縦断調査」では「給与・報酬が少なかったから」が退職理由のベスト1です。この経営者と社員の退職理由のギャップを理解していないと対策が手遅れになります。

欧米諸国では自分の賃金に納得できないと、上司に対して賃金交渉することが当たり前です。自分でスキルアップして自分で賃金を上げる考え方が元々あり、自分の仕事に対する評価はきちんと賃金に反映させてもらいたいと考えているからです。

ところが、日本ではその考え方がありません。

今、日本の賃金相場はかつてないほど上がっており、社員はその情報を常に見聞きするような状況に置かれています。本来であれば自分の仕事と賃金を見比べ、賃金アップを求めてくる社員がいても不思議ではありませんが、実際はほとんどいません。賃金交渉はせず、建前の理由を言って今の賃金より高い会社へ転社するのです。

もちろん、中には賃金に対する不平不満を言ってくれる社員はいるかもしれませんが、その不平不満のほとんどは誤解によるものです。賃金の決め方について明確な説明ができれば、ほとんどの社員を引き留められます。

賃金に不平不満を言わない日本人の特性を理解しなければ、「賃金が理由で辞める」という本音を隠したまま社員は辞めていきます。そうならないためにこそ賃金制度をつくり、賃金の決め方を明確に説明して社員の賃金に関する不平不満を無くさなければなりません。

どのようなときに賃金が上がるか、入社後40年間の賃金がどう増えていくか説明できる会社にする必要があります。これを明確に示すのが「モデル賃金」です。

もちろん、このモデル賃金は会社の業績によって変動しますし、社員も40年一直線に成長するとは限りません。さまざまな変動があるでしょう。しかし、この会社で成長することで自分の賃金がどう増えるか、社員に前もって教育することはとても重要な時代になりました。

この教育自体が、社員に対して「この会社は社員を成長させて賃金を増やそうとしている会社である」と明確に説明することになります。これにより社員は自分の賃金をどう増やしたら良いかが分かります。その後は、もう賃金について意識せずに仕事に集中できます。賃金制度は社員にとってとても大事ですが、最後には空気のように定着するのです。

日本においては「賃金を上げるために頑張ろう」ではなく「業績が良く自分が成長していったら賃金が増えていくと約束されているから、安心して自分の人生を素晴らしくしよう」と賃金を意識しなくてもいいように教育しなければなりません。

万が一、昇給・賞与が去年より下がったとしても、それは自分の評価が下がったのではなく、会社の業績が下がったからと事前に知らなければなりません。社員は賃金の大幅な上昇に関するニュースを見ても、他の会社に転社しようとは思わなくなります。

この教育ができる会社にならなければ、社員の定着率は大きく下がることになります。特に優秀で真面目な社員ほど、賃金に関して不平不満を言ってくることはありません。まじめな正直者がバカを見ないような会社にすることは経営者の重要な仕事でしょう。

社員が自分の40年間の賃金がどう増えるか、モデル賃金を用いて理解できるようになっているでしょうか?


第155話 新卒社員の教育の守るべき手順がある

2023-04-25 [記事URL]

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新卒社員が入社すると、会社は一日も早く成果を上げられるようになってもらいたいと思うでしょう。そのため、必要な知識技術を学ばせ、仕事ができるように教育します。

しかし、最初に教育すべきことは勤務態度であることを忘れている会社が多いように感じます。それぞれの会社にはそれぞれ特有の企業風土、組織文化があります。会社ごとに長い間時間をかけて当たり前だと言われてきたことが、その会社の文化として醸成されています。

企業経営の中で醸成されたこの企業文化を守ってもらうことがとても大事です。この文化が守れない社員は会社に定着しません。そのため、成長シートがある会社は入社の段階で成長シートの勤務態度を見せ、これを守ってもらうことがとても重要であることを説明しなければなりません。

知識技術、重要業務は入社して一から「学ぶ」ことになります。しかし、この勤務態度は「学ぶ」のではなく「守る」ことになります。なぜなら、高校時代、中学校時代に何度も何度も繰り返し聞いてきたことでしかないからです。初めて学ぶことは1つもありません。

「会社で明示している勤務態度の成長要素が大切だと思えるか?」
これは会社の価値観に共感できるかどうかの質問といえます。
勤務態度が守れない社員は、残念ながら守ろうとする気持ちがないのです。そのため、入社前に勤務態度が守れるかどうかハッキリと確認しなければなりません。これが守れないと言う人は採用しないことです。

そして、入社したらすぐに勤務態度を守ることをしっかりと指導し、成長を確認しなければなりません。通常は、新卒社員は入社1年後には勤務態度の成長基準が4点以上になります。それは、守ろうと思えば守れることだからです。これが1年経っても4点以上にならない、つまり勤務態度を守れていない社員の場合、その教育は困難を極めます。

勤務態度を守れるようになったら、次に知識技術を学ばせる。そして最後に、重要業務を学ばせることになります。重要業務ができるようになれば、結果として期待成果が上がります。

このとき、知識技術は必ず重要業務を遂行するために必要であると説明をしてください。知識技術と重要業務には密接な関係があります。この関係を説明しなければ、社員は知識技術を積極的に学ぶことはありません。

「知識技術はこの会社に必要だから身につける必要がある」という説明では学校と同じです。知識技術を身につける目的が分からず、社員は知識技術を学ぶ必要性を感じないのです。
「知識技術は、重要業務を遂行するために必要である」と説明がしっかりとされていれば、社員は知識技術を積極的に学ぶようになります。知識技術が身につかなければ重要業務ができないことが分かるからです。そして、同時に成果を上げることができないことも分かるからです。

一般的に、入社した社員に会社で必要なものを学ぶよう教育しようとしますが、この関係性を説明しておかないと、社員は本気で身につけようとしません。大切なことは、勤務態度を守ることはこの会社の社員として絶対条件であり、知識技術は重要業務を遂行するために必要であり、重要業務ができたら必ず成果が上がることを説明しなければなりません。この説明ができているでしょうか?


第154話 新卒社員が昇給に感謝する賃金制度とは

2023-04-18 [記事URL]

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新卒社員に入社後最初に教えるのは学校と会社の違いです。

新卒社員は高校時代も、大学時代も、学校ではさまざまなことを学んできました。ただ、この学んだことが実社会において何に役立つかは明確ではありません。学校時代には授業料を払っていたにもかかわらず、多くの場合、学校で学んだことがストレートに社会で役に立つことは少ないでしょう。

しかし、これから会社で学ぶことは、実社会で役に立つ一生ものの力を身につけることになります。稼げる人間に育て上げるという言い方もあるでしょう。もちろん「稼ぐ」とはお客様の役に立つことであり、「お役に立った分だけ稼げるようになった」という意味合いです。

会社で学ぶことには順序があって、まずは「勤務態度」、次に「知識技術」、そして「重要業務」、この順番で学んでいきます。これらを学ぶことによって成果を上げることができるようになるのです。このように、この会社で学ぶことは一生涯役に立つ自分にとって大切なことを身に付けることだと、しっかりと教育しなければなりません。

ところが社員に勤務態度を守らせ、知識技術を習得させ、重要業務をできるように教育指導するにもかかわらず、会社は授業料を請求することはありません。

会社の学びは自分のためであり積極的に学ぶことが必要でしょう。身に付いたものが奪われることはありません。仮にどんなに財産を持っていたとしてもとられてしまえばゼロになります。しかし身に付けたものは一生ものであり、それは奪われることはありません。そんな素晴らしいものを身に付けさせてくれる会社であると社員に教育しなければなりません。

さらに、この会社の賃金制度もしっかりと説明する必要があるでしょう。多くの会社では新入社員も入社1年後に昇給をしているでしょう。この1年後に昇給する理由は何でしょうか。

この昇給は、新卒社員が組織貢献をしたから昇給しているのではありません。まだ成果を上げることができていないにもかかわらず1年後に昇給するのは、新卒社員は一から会社で学ぶことを大前提として採用しているからです。そのため一人前になる間、例えば10年間は新卒社員の生活を保障するために賃金が昇給されるのです。

会社によって支給項目はさまざまだと思いますが、例えば年齢給は現代では「生活保障給」という目的となるでしょう。会社によって違う標準昇格年数(5年~10年)の期間中は、生活保障給として昇給するという説明が必要です。

それによって社員は会社で仕事を教えてもらっているにもかかわらず授業料を払わなくていいことと、毎年この生活保障給が昇給されることに対して、大いに感謝の気持ちを持つことになるでしょう。

この教育をしておかないと、1年経って昇給をしても感謝することなく、ただ単に3000円、4000円昇給したことを聞くだけになります。

新卒社員は入社して、一から学びますが、「授業料を払うことなく会社から生活保障給として年齢給を昇給します」と説明しているでしょうか。


第153話 既存社員に反対されないために新卒採用の前に取り組むべきこと

2023-04-11 [記事URL]

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これから日本の中小企業にとって、新卒採用はとても難しくなります。

大手企業でさえ新卒採用が難しい時代になりました。その影響は、中小企業の採用に大きな影を落としています。今でもなかなか新卒採用は難しい時代ですが、これからはその何倍も採用が難しい時代になっていきます。

その新卒採用に取り組む前に、中小企業がやっておかなければならないことがあります。

通常、企業には採用した新卒社員が一般階層を卒業する、いわゆる優秀な社員になるまでにかかる標準的な年数があります。それを「標準昇格年数」と表現します。

例えば標準昇格年数が10年の会社であれば、22歳で入社した新卒社員が一人前になる、つまり一人で仕事ができて成果を上げるまでには10年、32歳までかかります。その間は自分の賃金を賄うだけの収益を上げることは出来ません。

そのため、新卒採用をするためにはしっかりとした準備が必要です。その準備とは、新卒が入社しても仕組みによって成果を上げられるようにすることです。

新卒社員は全て一から学んでいく場合、入社後10年間は既存社員が上げた収益から新卒社員の賃金を払うことになります。そうであれば、既存社員の賞与が減ることは明々白々です。そのため、既存社員が「新卒社員の採用を反対した」という話はそう珍しいことではありません。

既存社員に反対されないためには、新卒社員が入るまでにさまざまな仕組みをつくる必要があります。今までベテランの社員がやっていたことを、入社したばかりの新卒社員でもできるような仕組みをつくっておくのです。

私の前勤務先の鮮魚小売業を例に仕組みを2つ説明します。店長やベテラン社員でも難しいとされていた発注業務を仕組みにすることによって、新入社員でも発注できるようにしました。この発注業務は通常、入社して10年以上経たないとできない仕事の一つでした。
また、鮮魚小売業の会社に入社した新卒社員が包丁技術を習得するためには、一般的に業界では10年はかかると言われています。この包丁技術を習得する方法を仕組みにすることによって、わずか1年で約8割の包丁技術を身につけられる仕組みをつくりました。

こうした仕組みがあれば、新卒社員を採用しても、採用した年からベテラン社員のやっていた仕事ができるようになります。

新卒社員が、自分の賃金をある程度仕組みで稼げるような企業にしてから新卒を採用しなければなりません。特に新卒の場合は、基本的に一から教えることになります。教えるのに標準昇格年数をかけるとなると、どうしてもその年数の間は既存社員の賃金・賞与をセーブすることになります。労働分配率の悪化を伴うこともあるでしょう。

そうならないためにも今の業務を仕組みにして、新人でもできるよう仕組みを構築してから新卒採用をしなければなりません。

新卒採用をしている会社は、この仕組みはできているでしょうか?


第152話 令和5年、社員を成長させるための最も大切な社員教育

2023-04-04 [記事URL]

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日々、賃金の見直しを検討している経営者は増えていますが、悩むだけでは社員の賃金を上げることはできません。

社員の賃金を上げたいと考えている経営者は、社員に「賃金はどうしたら上がるか」を教育する絶好のチャンスが来たと考えるべきです。

最も大事なことは、業績が向上しないと賃金は上がらないことです。
例えば経営目標を発表した会場で、全ての社員が「その経営目標は必達だ!」と発言することは通常ありえません。組織原則2:6:2の通りに、2割の社員は意欲的に、6割の社員は様子見、そして2割の社員は最初から否定的な考え方を持っています。このままでは経営目標を実現することは不可能だと言わざるを得ないでしょう。

では、「この経営目標が達成できたときこそ賃金がアップできる」と説明できている会社はどのくらいあるでしょうか? 例えば「今期の経営目標を達成したら、賃上げ率は平均5%になる」くらいの説明は必要です。

まずは業績と昇給・賞与の関係を説明しなければなりません。それによって経営目標は社員の昇給・賞与を高めるためにあることを社員に理解させなければならないでしょう。

そして経営目標を達成するためには、成果の高い社員のやり方を全社員で共有化して実行することです。

昇給・賞与に対する社員の考えは「自分はたくさんもらいたい」でしょう。それはいつも経営者が「頑張った社員にはたくさん昇給・賞与を出す」と言っていることを社員がそのまま理解している結果なのです。つまり、言い方を変えると「頑張って、自分だけはたくさんもらおう」となります。

昇給・賞与を増やす最も大切なことは会社全体の業績を上げることです。業績の大きさによって昇給・賞与はどうなるか、事業年度の最初に発表しなければなりません。

(A)業績がいいときにはどのくらいの昇給・賞与、(B)業績がまあまあのときはどのくらいの昇給・賞与、(C)業績が悪いときはどのくらいの昇給・賞与になるか、事業年度の最初に発表することです。それによって、社員は経営目標の実現によって自分の昇給・賞与がいくらになるか、1年前に分かるようになります。

昇給・賞与が少なくなってもいい社員は一人もいません。全社員が少なくとも前年より昇給・賞与を増やしたいと考えているでしょう。そのためには業績を前年より上げなければなりません。

ではどうやって業績を上げたらいいのかと社員が考えたときに、「優秀な社員をモデルにしてつくった成長シートに書いてある重要業務をみんなで遂行すること」と考えることができれば、全社員が成長すること=会社の業績を上げることだと分かるでしょう。

そして、特に優秀な社員が成果の上がっていない社員に積極的に教えることが、会社全体の業績を上げることへの一番の近道だと理解できるでしょう。この発想ができる社員は、さらに優秀になることはどの会社においても同じです。

この教育を今こそしていかなければなりません。今年の事業計画書、経営目標の発表時にはこの教育から始めてもらいたいと思います。

今、あなたの会社は、昇給・賞与は業績の向上によってこそ増えるということを社員に理解させているでしょうか。


有限会社中井レストラン企画様(飲食店の経営、酒類の製造および販売等 大阪府)

2023-04-03 [記事URL]

「人事制度の導入によって従業員の成長を促すことに成功。おかげさまで、独立した元従業員ともビジネスパートナーとして良い付き合いができています」有限会社中井レストラン企画 代表取締役 中井 深氏

働くポジションや昇給および賞与に関して従業員の納得度を高めるため、成長塾で人事制度づくりを学ばれた有限会社中井レストラン企画 代表取締役 中井 深氏に、その経緯と効果について詳しく伺いました。

●会社プロフィール
会社名:有限会社中井レストラン企画
代表者:代表取締役 中井 深
従業員数:20名(正社員5名、アルバイトパート15名/2022年6月現在)
所在地:〒541-0053 大阪市中央区本町1-7-1 三星本町ビル
事業内容:
飲食店の経営、ビール・発泡酒・その他酒類の製造および販売、
飲食店の企画・運営、飲食店の経営コンサルタント業務、
食料品および飲料品の販売、通信販売
URL:http://www.dolphins.co.jp/

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1.ベルギービールを提供する居酒屋を展開

――有限会社中井レストラン企画の会社概要をお聞かせください。

私が29歳のときに独立し、1985年4月に飲食店を開業、1990年3月に現在の有限会社中井レストラン企画を設立しました。店舗は私のビール好きが高じた、ビールがメインの居酒屋です。創業当時は世界各国のビールを提供していました。

途中からベルギービールの専門店にシフトしましたが、その理由はたまたま訪れたビール専門の講習会でベルギービール専門店舗のブースに出会い、興味を持ったからです。初めは「飲みやすい」「フルーティー」だけでなく「濃い」や「酸っぱい」など、バラエティに富んだ味が面白いと思いました。もっとベルギービールを勉強したいと考え、現地にも足を運びました。

いくつものビール醸造所を見学させてもらい、それぞれに非常に深いバックボーンがあることが分かりました。とくにさまざまな文化が交じり合ったベルギーの歴史と風土は興味深く、現地のビール醸造所はそのバックボーンを味に反映させていました。そこで、あらためてベルギービールの味を日本の皆さんに知っていただきたいと思い、ベルギービールの専門店にシフトした次第です。

店舗写真
カフェでコーヒーを飲む感覚でベルギービールを楽しめる店DOLPHINS Umeda

現在はご存知の通り、コロナ禍の影響で飲食業界全体が大打撃を受けてしまいました。もちろん、当社も例外ではありません。一時は6つあった店舗も一店舗は閉店、もう一店舗はのれん分けを行うなどして規模を4店舗に縮小しました。しかし、ただ縮小するだけでなく、4店舗のうち、ひとつの店舗は自社製クラフトビールのビール醸造所にチェンジし、新たなビジネスモデルを構築中。このビール醸造所には、クラフトビールを提供するブルワリーパブも併設する予定です。

激動の飲食業界ですが、当社はコロナ禍の先に向け、新たなチャレンジにまい進してまいります。

2.キッチンとホールも兼任できる体制を構築したい

――成長塾を受講した背景をお聞かせください。

店舗写真
美味しいベルギービールと料理が楽しめる店内

もっとも大きな理由は好き嫌い、もしくは得意不得意でポジション(キッチン/ホール)が決まってしまい、店舗運営の効率化・活性化につなげることができなかったためです。

確かにキッチンが得意で接客が苦手な従業員の場合、あまりホールに出たくない気持ちは分かりますが、忙しい時間帯で人手が足りないときはホールにヘルプが必要です。そうした場面で頑なにキッチンにこだわる従業員がいると、店舗をスムーズに運営することができません。

しかも、私が「キッチンも大事、ホールも大事」だと従業員に浸透させることができずにいたため、ポジションにこだわる我儘がまかり通っていました。しかたなく、ホールを回すためにアルバイトを雇い、無駄な人件費を支出していました。

もうひとつ、昇給や賞与の決定にも苦労していました。基本的には私の一存で決まるわけですが、従業員と面談し、お互いに顔色を伺って昇給や賞与の額を決める状況でしたから、一人ひとりに時間がかかります。

しかも、提示する昇給や賞与は、面談時の場当たり的な数字。根拠があるわけではありませんから、従業員に対する説得力がありません。納得してもらうためにも気を使うため、私にはとてつもなく重労働でした。毎回、従業員が納得する昇給や賞与を簡単に算出できる方法はないかと考えていました。

――先ほどの問題を解決するための施策などはされたのでしょうか。

中小企業家同友会の研修会の旗を前に撮影された写真
大阪府中小企業家同友会での新人社員研修会のシーン

大阪府中小企業家同友会に所属する経営者仲間と相談しつつ、さまざまな施策を思案しました。例えば、従業員を交えた戦略会議もそのひとつです。

会議自体は盛り上がり、決定した事項を実行しようとするのですが、しばらくすると従業員は「会社には良いかもしれないけど、自分たちにはどんなメリットがあるのか」という考えが頭をよぎってしまうせいか、長くは続きませんでした。要は私が「どう頑張れば給与が上がるのか」を示せないため、従業員のモチベーションが続かない状況でした。

――成長塾に出会った経緯をお聞かせください。

あるとき、大阪府中小企業家同友会の経営者仲間の一人が、とても清々しい顔をされていたので「どうかされましたか?」と伺いました。すると、松本先生が主催する成長塾を受講したとのこと。さらに、成長塾の人事制度を導入して以降、会社が劇的に変革し始めたと聞き、これは当社もその人事制度を導入したいと思い、2010年12月に成長塾を受講しました。

3.成長シートづくりを再確認するため2回目の成長塾を受講

――2014年にもう一度受講をされていますが、その理由を教えてください。

最初の受講後、すぐに成長シートを作成して運用したところ、2010~2013年までは非常に上手くいきました。従業員も「期待成果」や「重要業務」などの成長点数が自身の成長につながること、昇給や賞与にもつながることを理解できていました。そして、私や幹部もフィードバックや成長支援会議を行い、人事制度の運用に力を注いでいました。実際、そうした人事制度の導入が業績にも成果として表れていました。

ところが、従業員が成長しているはずなのにも関わらず、2014年は業績が芳しくありませんでした。そこで、従業員と一緒に成長シートを見直したところ、「当社で言うところの優れたやり方は、他店では普通もしくは当り前なのかもしれない」という結論にたどり着きました。もちろん、私自身の経営戦略にも問題があったかもしれませんが、現状の状況を打破したいという想い、そして、成長シートづくりをあらためて確認、ブラッシュアップしたいという気持ちがあって、再度受講することにしました。

――2回受講されて人事制度は明確になりましたか。

もちろん、明確になりました。2回目の受講以降は、成長支援会議のなかで「重要業務」「知識・技術」の定義を毎回見直すようになりました。これにより、良い意味で成長点数の基準がシビアになるため、従業員を次のステップへ促せるようになりました。

4.正社員だけでなく、アルバイトは成長シートのスモール版で評価

――人事制度を導入して良かったところを教えてください。

多くの効果がありましたが、主だったところでは以下が挙げられます。

<成長と処遇(昇給・賞与)がリンク>

自身の成長が処遇(昇給・賞与)につながるということを説明できるようになりました。とくにキッチンとホールの両方を重要業務に位置付けたことが大きく、この両方をこなすことが成長への第一歩であることが、ようやく従業員に理解してもらえました。

<教えることが当り前の環境に>

優れたやり方を他の従業員に共有して成長させることが5点という考え方は、とても素晴らしいと感じています。これこそが、私が求める理想の従業員像です。こうした高い成長点数は処遇(昇給や賞与)につながっていきますから、従業員も教えることに抵抗がなくなっています。もっと教えることが当り前の環境になれば、店舗の雰囲気はより和やかになるのではないかと期待しています。

<給与に納得感>

人事制度による評価と業績がリンクしているため、従業員から給与に対する不平不満の声がなくなりました。従業員も納得感があるようです。そして、私も楽になりました。

以前は昇給時期になると時間がかかるため、とても憂鬱でしたが、今は成長点数をベースに算出するだけですから、まったく時間はかかりません。

<新卒の採用に成長シートを活用>

以前は中途採用ばかりでしたが、人事制度導入後は成長シートでキャリアプランを説明できるようになったため、新卒の採用を決意。新卒の合同説明会などの場で成長シートを大いに活用し、実際に新卒を採用することができました。

<アルバイトには成長シートのスモール版を利用>

当社にも多くのアルバイトが在籍していますが、彼らの働きに対しても成長シートを応用できないかと思案し、成長シートのスモール版をつくることにしました。1項目あたりの成長点数は最高4点に設定。ビールとワインの持ち運びに関する項目を例にすると、「ビールもしくはワインをオーダーの席に持っていく」だと1点、「ビールとワインを一緒にオーダーの席に持っていく」では2点になります。2点を獲得すると研修が終わり、「素早く正確に」などが付くと3点になり、時給が上がるというシステムです。こういった項目を30前後用意しました。

アルバイトの業務を定量的に評価し、時給に反映できるため、非常に重宝しています。

5.一般的な外食産業よりも離職率が低い

――人事制度導入後の定量的効果をお聞かせください。

人事制度導入前後の2010年9月~2011年2月、2011年3月~2012年8月という6カ月で比較し、以下に示しました。人事制度導入前の2010年9月~2011年2月の売り上げ100%とした場合、人事制度導入後の2011年3月~2012年8月は業績が向上しているのが分かると思います。

また、2016年度の離職率を以下に示しました。長く働いてくれる従業員を確保するのが難しい飲食業界ですが、人事制度導入後の当社は従業員、アルバイトともに平均就業年数が長く、離職率が少ないというデータになりました。人事制度導入の効果は確実に得られたと考えています。

6.コロナ禍で辞めた元従業員と良好な関係性を築く

――冒頭でコロナ禍の影響をおっしゃっていましたが、もう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

コロナ禍は、飲食業界および当社に大きな打撃を与えました。そもそも最初の非常事態宣言時は営業自体できなかったため、売り上げは最大97%ダウン。現在はようやく6~7割ぐらいまで回復してきたところです。しかし、依然としてコロナ禍前の状況には戻っていません。

また、「営業ができない」「売り上げがない」となると、自ずと従業員は削減するほかありません。コロナ禍で十人前後の従業員が辞めていきました。残った従業員に対しては、成長シートを「今何をやるべきか」に絞り、コロナ禍仕様に変更して対応しました。ようやく現在は、コロナ禍前の成長シートに戻しつつあるところです。

幸いにも、当社を辞めた従業員の多くは円満退職で、独立して自分の店を持つ元従業員も少なくありません。そういった元従業員は、有り難いことに頻繁に当社の店舗に遊びきてくれます。もちろん、お互い遺恨などもありません。こうしたフランクな付き合いができているのは、人事制度による成長支援とアットホームな環境が少なからず影響しているのではないかと推測しています。

私も飲食業が好きですから、同じ飲食業を志す元従業員をしっかり応援したいと思っています。

――人事制度に悩んでいる飲食業に向けて、アドバイスがあればお願いします。

当初は「従業員みんなが定年退職まで勤める会社にしたい」と思っていましたが、大きなチェーン店ならともかく、当社のような規模の小さな会社では難しいというのが正直な感想です。

それでもコロナ禍を除き、当社が外食産業の平均よりも離職率が低いのは、成長塾の人事制度のもと、従業員の成長を促すことができたからだと思っています。仮に辞めても、成長シートを通じて自力で生きていく力が身についていれば、同じ飲食業の仲間として協業していくことも可能です。事実、これから当社がつくるクラフトビールを元従業員が経営する店舗に置いてもらう話を進めています。

私から言えるのは、会社に都合の良い成長シートにしないこと。繰り返しますが、従業員の成長を促すことに重点を置いた成長シートを作成すれば、長く付き合える飲食業の仲間になるのではないかと考えています。それを念頭に、飲食業の経営者も成長塾を受講することをおすすめします。

――最後に一言お願いします。

実は最初の受講のとき、重い病気にかかってしまい、計6講座の講義の4講座目を受講することができませんでした。病気のこと、4講座目を受講できないことを松本先生に伝えると「とにかく病院に行ってしっかり直し元気に帰ってきてください」と安心する言葉をかけていただきました。

病院では、松本先生に用意していただいた教材と電話でのコンサルティングにより、4講座目の講義をクリア。退院後は5講座目の講義に出席することができました。こうした松本先生のフォローは本当に有り難かったですね。こうした対応には感謝しかありません。これからも、引き続きよろしくお願いいたします。


従業員は同じ飲食業で働く大事な仲間

有限会社中井レストラン企画様、お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

※有限会社中井レストラン企画様のホームページ(http://www.dolphins.co.jp/)
※取材2023年1月


第151話 この時代に経営者が最も優先すべき教育の重要性

2023-03-28 [記事URL]

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社員の賃金を検討することはとても重要な経営課題です。特に今は物価高により、社員の生活は厳しさが増すばかりです。賃金が上がらなければ、物価高になった分、可処分所得が減少したに等しい状況になります。その状況を見過ごすわけにはいきません。そのため、多くの経営者は社員の賃金を上げることを検討しているでしょう。

賃上げには「昇給」と「ベースアップ」の二つの方法がありますが、賃金の底上げをしたいとベースアップを考える経営者は増えています。確かに賃金を上げることは大事でしょう。しかし、賃金を上げる以上に重要なことがあります。

それは「賃金を上げられるように社員を成長させる」ことです。つまり、稼げる社員に成長させることです。

稼ぐことの本質は、目の前にいるお客様のお役に立つことです。社員が目指す成長の方向性は、お客様のお役に立つ社員として成長することです。社員がそのように成長することで、賃金を上げることができる可能性は高まっていきます。

しかし、日本の中小企業の黒字化率は約30%と言われていますので、そんなに簡単ではないでしょう。ですが、決して無理なことではありません。やることはたった二つです。

一つ目は「成果を上げている優秀な社員が何をしているか可視化する」こと。二つ目は「その可視化したやり方を成果の上がっていない社員に教える」こと。この二つだけです。

全ての中小企業にも組織原則2:6:2があります。優秀な社員が2割、まあまあの社員が6割、これからの社員が2割います。この組織原則で考えれば、優秀な社員の2割が何をして成果を上げているのかを可視化するのが一つ目です。

二つ目は可視化した「成果を上げるやり方」を他の社員に教えます。このとき、教えられた社員が教えた通り実行しなければ意味がありません。そのため、成果の上がっていない社員は成果が上がるやり方を素直に真似することです。

「学ぶ」の元々の意味は「真似る」からスタートしています。成果の上がっていない社員が素直に成果を上げるやり方を真似してもらう教育、これは最も重要な教育の一つでしょう。

「やる気を出せ!」と言う指導よりも、「この『成果を上げるやり方』は、成果を上げた人たちがさまざまなことに挑戦してやっと見つけたものです。これを真似することで、何年もの時間を短縮して同じように成果を上げることができます。その短縮した時間を利用して、成果の上がるやり方を学んだ先、それ以上の成果を上げるやり方を考える。そのように成長することが大事です」と、成果の上がっていない社員に教育する最も大切な時期と言えるでしょう。

この二つができれば、社員が全員成長する組織になります。社員が全員成長している組織で赤字になることはありません。是非この二つを取り組んでもらいたいと思います。

今、全ての社員が成長しているでしょうか? またその成長するための仕組みをつくっているでしょうか?


第150話 優秀な人材をスカウト採用から守る唯一の方法

2023-03-14 [記事URL]

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最近の中途採用は、求人広告を出して社員を募集する方法から、スカウトサイトに登録している中から社員を採用する方法に徐々に変化してきています。

これにより、社員は転職を考えたときに初めて求人広告を見るという時代から、今すぐ転職する気はなくてもスカウトサイトに登録する時代になりました。

スカウトサイトに登録している社員は、今の会社の評価や賃金に満足していない社員が多いでしょう。評価と賃金は一致していることを、社員が納得できるよう分かりやすい説明をしている会社は少ないのが現状です。

例えば年収400万円の社員がスカウトサイトに登録し、年収500万円のスカウトを受ければ、心が動くのは当然でしょう。そのため、我が社の優秀な社員が他の会社に転職しないための方法を考える必要があります。同じくらい優秀な社員を採用することは、ほぼ不可能です。

社員の物心両面の豊かさを考えている経営者は、社員を一生懸命成長させ、そして賃金を上げたいと考えているでしょう。しかし、世の中にいる経営者が全てそう考えているわけではありません。スカウトサイトで、必要な人材を高い年収でスカウトする会社は「社員の今後の成長を考えて」だけではなく、「今不足している人材を至急求めている」ケースの方もあるでしょう。つまり、その社員の人生を考え、そして物心両面の豊かさまで考えて採用しないことも想定されます。

我が社の社員にはしっかりとした教育が必要です。それは我が社には成長階層が一般階層・中堅階層・管理階層があり、その階層を上がるように成長してもらうことを考えており、その成長によって賃金はどう増えていくのか説明することです。社員が将来のことを考えられるよう、賞与も含めた年収が分かるようにするとより良いでしょう。経営者はこれを社員に明示して教育しなければなりません。

経営者が社員の物心両面を豊かにしたいと思っていても、明確な仕組みが無ければ社員はその想いを理解することができません。そのため、3階層の成長シートをつくり、その階層にステップアップするための基準を明確にし、そして会社の業績がいいことを前提として社員が成長していったらどのように年収が増えていくのか、仕組みをつくり説明しなければなりません。

賃金に関して社員から不平不満がないという会社がほとんどでしょう。しかし、日本人は世界の中で一番賃金交渉をしない国民であることが分かった以上、安心することはできません(出典:リクルートワークス研究所⦅2020⦆「5か国リレーション調査」)。

この社員の40年間の賃金がどう増えていくか説明できることが、本当に社員のことを思っている、物心両面豊かにしたいと考えている証明にならざるを得ないようになりました。

特に優秀な社員はスカウトサイトから常に誘いを受けているという感覚を持ってください。その対策をしているでしょうか。


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